第24回となった「リモデルスタイル作品コンテスト2008」につきましては、全国から3000点余の作品が寄せられ、リモデルへの高い関心と取り組みがうかがえました。また本年度は、住まい手の生活スタイルからなる従来の「テーマ別」部門に加え、各部位単位での作品内容を競い合う「空間別」部門も新設され、より密度の濃い内容となりました。
新たな応募体系に合わせ、審査員も建築家の今井淳子先生に加えて、新たにユニバーサルデザイン研究の第一人者である竜口隆三氏を加え、2名での審査体制となりました。審査を通じて感じられた点について、両先生からコメントをいただきました。
今回は従来の「テーマ別」の他に「空間別」の部門も設けられ、全面リモデルから1部位を丁寧にプランニングする事例まで、多彩な作品を審査できました。プランニングや施工の質が加速度的に向上していることを確かめられ、応募された皆様方の顧客本位の姿勢や勉強ぶりを肌で感じました。
今年はまた、ただ住まいの不具合個所を直すだけでなく、建物自体の基本仕様を高める作品が多く見られました。基礎や柱、梁など構造を見直して耐震補強を施し、断熱性能を高め、バリアフリー仕様にする。その上で住まい手の家族構成や生活スタイルに合った空間を提示していく、そうした住まいづくりの原点をしっかり見据えた作品が多くうかがえ、頼もしく感じました。
ご承知のように、今、新築住宅は長期使用を前提とした、良質の住宅ストックづくりへの動きが加速しています。今後は既存の建物についても、リモデルによって耐久性を高め、数代にわたって長期使用できる住まいに更新する姿勢が欠かせなくなっていきます。そうした潮流を先取りするかのように、古い、寒い、暗いといった建物自体に由来する諸問題点を解決する作品群に、対症療法に留まらないアプローチを見いだしました。
お施主様が求める空間をただ提供するのではなく、要望の根底にあるものを丹念に探る作業は不可欠です。暮らしの問題点を見つけ出し、最適な解決法を見つけ、お施主様の生活のレベルアップを助けること。これがリモデルの重要な役目かと思います。
どんなに住まい手に配慮した家であっても、時間の経過と共に使いやすさは低下していくもの。それは老朽化に加え、生活者のライフステージが変化していくためでもあります。
お施主様の生活形態を7年~10年単位のスパンで見ていくと、必ず家族構成は変わっていきますし、年齢と共に必要な機能や間取りも変化します。それらの変化に合わせ、都度最適な空間を提案する作業がリモデルではないでしょうか。
日頃しっかりと住まいのメンテナンスを実施しつつ、ライフステージの変化に合わせたリモデルの実施が、常に快適で暮らしやすい住まいにつながります。私は"住まいの町医者"と呼んでいるのですが、応募された皆さんが住まいのアドバイザーとして、ホームドクター的存在になれれば、住まい手も皆様も幸せになれるはず。
今回応募作品の中に、いくつか「毎年少しずつ部屋を改修していく」「細かな仕様は数年後に見直す」といった段階的なリモデル例が見られました。そこには、新しい空間を1回つくって終わりにするのでなく、時間をかけてフィットさせていく視点がうかがえます。
かつては住まいに自分たちの生活を合わせていましたが、今は自分たちのめざす生活に合わせて家をアジャストする時代。そして必要なプランは、常に変化していきます。最適な空間づくりの実現のため、これからのリモデルにはつくり手にプロとしての提案力が問われていくはずです。(談)
本コンテストに初めて参加させていただきましたが、多くの作品を前に、時代の流れや傾向、新しい情報も得られ、楽しみながら審査できました。それにしても近年のリモデル作品は完成度が高いですね。費用もかなりのものもありましたが(笑)。
ただ、あまりにも立派過ぎる家を見て、ここまで変える必要があるのかと思う作品があったのも確かです。というのは、以前の住まいの記憶を継承することも、リモデルの大切な視点と近年感じているためです。
とくに住替えの場合、若い方は順応も早いですが、高齢の方は新しい環境に適応するのに時間がかかり、ひどい場合は拒否反応により、認知症が進むといったケースも散見されます。見慣れていた景色や思い出がなくなるという不安は、心身の安定を損ねるもの。だから今住んでいる家をいかに住みやすく考えるか、それが『真のリモデル』だと思っています。
そういう意味で、機能や設備機器は更新しつつも、既存建物の持つ魅力を生かした作品には好感が持てました。例えば、天井板を外して梁を見せて開放的にしたリビングや、以前の柱や建具を再利用するといったアプローチなどです。空間が新しくなっても、以前の床板や手すり1つ残すだけでも、昔の面影となって安心感につながるものです。
新旧の調和を大切にした作品は、建物のもつポテンシャルを最大限生かすという視点にもつながるかと思います。
手すりの取付高など、一般的なバリアフリーの仕様はある程度数値化されています。しかしそれは必要なご本人にとって、必ずしも最適な位置であるとは限りません。私たちは、教科書通りのアプローチでは最適なプランにはならないことを理解する必要があります。
本来は現場でご本人の動きを見ながらプランを検討したり、取付位置を決めたりすべきもの。しかし実際のビジネスではそこまで時間をかけられず、一般的な取付位置に施工してしまうことは多いのではないでしょうか。
そういう意味では、事後の検証を行うということが大切なのです。施工後しばらく時間を置いてから、再度お訪ねする。その時に実際の使い勝手を聞き、不具合があれば調整するといったケアが必要でしょう。これらを手間と思わず、お客様との信頼関係構築の場、顧客満足を高める場と捉えていただきたいものです。リモデルは「これで終わり」がない行為なのですから。
ユニバーサルデザインの普及を進める者として、私は常日頃「ひとを観ること、生活を観ることが大切」と言っています。人を、観る。生活を、観る。すると次に必ず「気づく」という行為が生まれるはずなんです。この気づきが創造的な発想やプランとなってリモデルのアプローチに反映され、真の解決が図れる。こうした姿勢が大切ではないでしょうか。
また住まい手の方には、必要と感じたら早めにリモデルしていただくようお願いしたいですね。いざ本当に必要になってからの改修では遅い時もあるんです。高齢者の家庭内事故を見ると、とくに強くそう思います。「転ばぬ先のリモデル」ではありませんが、健康なうちに早め早めに住まいやすくしていただきたい。それは決して無駄な出費ではありませんから。
堅い話ばかりになってしまいましたが、最後に、ディテールへの工夫、さり気ない工夫や使いやすさへの追求にも目を惹く作品が多々ありました。機能も大切ですが、遊び心や癒しといった要素を加えられると、より居心地の良い空間になるかと思います。来年も素敵な作品で、ぜひ私の頭をリフレッシュさせてください。(談)
今井淳子先生
一級建築士、(株)あい設計主催
1945年横浜市生まれ。工学院大学建築学科卒。「住まいの町医者」をめざして30年。建て主の想いを一緒に整理し、形にする。住まいを創るのは家族であるとの考えから、共働き、育児、同居、介護、趣味など、生活全般をテーマとする。著書に『定年後が楽しくなるリフォーム』亜紀書房 『家づくりのバイブル』三省堂(共に共著)がある。
竜口隆三
西日本工業大学デザイン学部教授
東陶機器(株)(現TOTO(株))にて長年水まわり設備機器・福祉機器を中心としたバリアフリー化の研究・開発業務に従事し、2002年同社内に設立されたUD(ユニバーサルデザイン)研究所の初代所長に就任。現在は西日本工業大学で教鞭を執るほか、国内外でUDを中心とした講演活動も精力的にこなす。また地元北九州市において高齢者住宅相談員を務めるなど、社会活動にも多数参加。